鈴木伸治の徒然記

永年の牧師、園長を隠退し、思い出と共に現況を綴ります

隠退牧師の徒然記<213>

隠退牧師の徒然記(2013年7月20日〜)<213>
2013年12月4日「思いを形にしながら」


聖書の言葉
このほかにも、イエスは弟子たちの前で、多くのしるしをなさったが、それはこの書物に書かれていない。これらのことが書かれたのは、あなたがたが、イエスは神の子メシアであると信じるためであり、また、信じてイエスの名により命を受けるためである。
ヨハネによる福音書20章30-31節)



スペイン・マドリッドにおられる祥永さんとフェルナンドさん夫妻に男の子が生まれたということで、お祝いのカードをメールで送った。その出来栄えについては連れ合いのスミさんからお褒めにあずかったのであるが、作品を完成させたという実感が持てない。写真とイラスト集から選んだものを組み合わせたにすぎないからである。写真でもイラストでもパソコン操作で、どのようにも作れてしまうからである。若い頃はパソコンは登場してなく、ガリ版の時代であり、ヤスリの上で作り上げる文章にしてもカットにしても、まさに手作りであったのでやりがいがあったと思う。今は簡単にできてしまうので、つまらないとの思いがあるのである。
横浜市立大学のエクステンション講座が12月3日に開かれ、今回も受講する。もう何回も紹介しているが、今回のテーマは「イタリア・ルネサンス美術の3大巨匠」(天才芸術家の名作探求)で、レオナルド・ダ・ヴィンチミケランジェロラファエロの芸術を学ぶものである。今回は「イタリア・フレスコ画の歴史」について学ぶ。昔からの画家たちが精力的に残した名画を鑑賞する時、その絵のすばらしさだけを見て、その制作過程については思いも及ばなかった。今回の講座でテンペラ画、フレスコ画、油絵画等を知ることになる。フレスコ画は、まず壁に漆喰を塗り、その漆喰がまだ「フレスコ(新鮮)」である状態で、つまり生乾きの間に水または石灰水で溶いた顔料で描く。やり直しが効かないため、高度な計画と技術力を必要とする。失敗した場合は漆喰をかき落とし、やり直すほかはない。このフレスコ画が始まるのは1250年頃で、ミケランジェロが1508年から1512年までの4年間でヴァチカンのシスティーナ礼拝堂の天井画を描くのはこのフレスコ画である。フレスコ画は漆喰が乾かない状態で顔料を施すので、漆喰が乾いたとき岩盤になる。従って、その絵は空気に触れても衰えることがなく、何百年も原型のままなのである。ところがフレスコが現れる前の時代はテンペラ画であった。テンペラ画は卵と融合させて仕上げるもので、年月の経過と共に衰えることになる。レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」はテンペラであり、だんだんと劣化している現状である。レオナルド・ダ・ヴィンチは熟考する人で、作品に向かっては何回もやり直しをする。そのためフレスコ画が流行るようになっても、やり直しができないフレスコ画では描かなかったと言われる。その点、ダ・ヴィンチに師事していたミケランジェロフレスコ画により師を抜くことになるのである。そのフレスコ画も1500年頃には油絵に取って代わられるのである。
昔はガリ版の時代であり、その時代に思いを寄せて2012年6月4日のブログ「一つの体へと導かれ」と題して記し、6日のブログも「生きている限り読み返し」と題して記している。謄写版時代に思いを馳せ、懐かしい思いを綴っているのである。今の時代は手作業が少なく、パソコンで手紙を書き、宛名もパソコンで書く。本人の字体を示さないままに手紙が作られるのである。年賀状を書く季節になっているが、お正月に送られて来る年賀状を楽しみにしつつも、例によって、いただく年賀状の半分以上はパソコンで作られているので、なんとなく味気ない思いである。それでもパソコンで作られた年賀状に自筆で添え書きがしてあると、やはり心がこもっていることを示されるのである。「美しい文字を書く」というテーマで、テレビの番組が紹介していた。最近は文字を書くことが奨励されているようである。本屋さんでも、「美しい文字の書き方」という手習い書が多く出ていると言われる。私自身、なるべくパソコンではなく自筆で手紙を書くようにしているが、手紙を書く機会も少なくなっているのである。メールでやりとりしてしまうからである。大塚平安教会時代に牧師として毎日のように教会員の皆さんにお手紙を書いたことがあった。一通り皆さんに書いたところで終わってしまったが、今でも皆さんにお手紙を書きたいという思いはある。しかし、隠退している者が、いつまでも皆さんにお手紙を書くと、亡霊のように現れる存在は敬遠されるのではないかとも思っている。
いずれにしても名画が残されており、名筆と言わなくても本人を思わせる書体を残しておくことが大切ではないかと思っているのだが。



ヴァチカンのシスティーナ礼拝堂ミケランジェロフレスコ画
2012年9月19日にローマ、ヴァチカンを見学した際に撮影する。