鈴木伸治の徒然記

永年の牧師、園長を隠退し、思い出と共に現況を綴ります

隠退牧師の徒然記 <43>

 

隠退牧師の徒然記(2011年6月1日〜)<43>
2012年1月10日 「心が静まり、気分が良くなり」 


聖書の言葉
サウルの家臣はサウルに勧めた。「あなたをさいなむのは神からの悪霊でしょう。王様、御前に仕えるこの僕どもにお命じになり、竪琴を上手に奏でる者を探させてください。神からの悪霊が王様を襲うとき、おそばで彼の奏でる竪琴が王様の気分を良くするでしょう」。
神の霊がサウルを襲うたびに、ダビデが傍らで竪琴を奏でると、サウルは心が静まって気分が良くなり、悪霊は彼を離れた。
(サムエル記上16章14節以下)


毎年のことであるが、新年を迎えるとニューイヤーコンサートがテレビで放映される。今年も連れ合いのスミさんは胸を弾ませてテレビの前に座っていた。私はと言えば、興味がなくはないが、どうも初めから終わりまで聴くという思いはなく、それよりもパソコンに向かうか、本に向かうかということになる。音楽の世界にはいつも心を向けているが、そのために特に時間を裂くことはないのである。少年の頃から教会に身を置いており、讃美歌を歌うことは生活の一部になっているが、音楽の世界には入って行かなかったのである。
清水ヶ丘教会では中学、高校生時代を過ごしたが、横浜クリスチャンクワイアの指揮者である奥山正夫さんがおられた。奥山さんは若い人たちを指導し、ウクレレで楽しく歌っていた。青年達もウクレレを奏でる人が多く、影響されて私も練習するのであるが続かなかった。23歳で神学校に入り、2年目からは清水ヶ丘教会から川崎教会に移り、実習教会とした。その教会にはフルート奏者が居て、礼拝はフルートを奏楽にしてささげられることもあった。そのフルート奏者から使わないフルートを借りて、しばらく練習をしたものであるが続かなかった。ピアノ、オルガンは常に傍らにあるわけで、ひとときピアノの練習をしてみたが、これも続かなかったのである。独学で取り組もうとするから続かないのであって、それなりに指導者がいたら奏でることができるようになったのかもしれない。
このように記すと音楽は駄目な人間なのであるが、一つだけ奏でることができるものがある。驚くかもしれないがハーモニカなら吹けることができるのである。たかがハーモニカであり、楽器とは言えないかもしれないが、これで器楽の合奏をしたことがある。もっとも小学生の頃であるから、もう60年以上も昔になる。小学校5年生であったか、6年生であったが覚えていないが、全校の音楽会が開催される。クラスでは器楽の合奏をすることになった。その頃の学校にはたいした楽器がなく、木琴、シンバル、カスタネット、太鼓、トライアングルくらいしかなかった。男の子は太鼓とかカスタネットが担当であった。毎日練習をしている頃、ハーモニカを手にしたのである。昔、日本聖書協会は聖書頒布員を置き、各地で聖書の分冊を頒布していた。清水ヶ丘教会員の頒布員の方が、私の二人の姉たちとも交わりがあり、我が家に聖書の分冊を置くようになったのである。出入りしている頒布員の方が私にハーモニカをプレゼントしてくれたのであった。それからは、今学校で練習している合奏曲を猛練習する。ある程度、吹けるようになったので、合奏の指導をしている先生にハーモニカで合奏に参加させてくださいとお願したのである。もちろん先生は喜び、打楽器の中で特異な存在になったのである。ところが何日かして、ハーモニカを持参する友達が増えてくる。みんな親にねだって買ってもらったのだろう。10人くらいがハーモニカで演奏をすることになったのである。私のハーモニカ演奏はそこから始まったというわけである。
今日まで、ごく時たま吹いているが、それも密かに吹いているので、私がハーモニカを吹くことについては、家族すら知らないのである。みんなの前で吹くことはなかったからである。隠退牧師になってから、時間の余裕ができたからであろう、ハーモニカを吹く気になって来た。しかし、持っているハーモニカは東海楽器製造株式会社の30穴もある「スーパー・ミヤタ」というもので、普通のハーモニカより大きいものであった。小学生時代のハーモニカはどこかに消えてしまったので、大塚平安教会に就任してから購入したものである。いつの時代に購入したかは不明であるが、箱には3000円と書いてあった。まだまだ使えるのであるが、このさい普通のハーモニカを買うことにした。それで横浜の高島屋に見に行ったのである。ところが楽器売り場に置かれていたのはクロマチック・ハーモニカというものであった。ハーモニカは穴が二段になっているが、クロマチックは一段で、円い穴があいている。何か新しい楽器のようで購入する気にはならなかった。今は時代が進み、昔ながらのハーモニカは無くなってしまったのかと思うのであった。ところが昨年11月頃、金沢八景にあるダイエー店の楽器売り場を覗いたら、昔ながらのハーモニカがちゃんと置いてある。すぐさま購入した。24穴の普通のハーモニカである。鈴木楽器製作所のもので御縁があるようだ。



スーパー・ミヤタのハーモニカ。
今まで、ずっとこのハーモニカを吹いていた、


新しく購入した鈴木楽器のハーモニカ。


新旧のハーモニカ。今までのものも吹いている。


せっかく新しいハーモニカを持ったのであるから、どこかで披露しなければと思い、密かに練習していたものである。そしてその時がやって来た。六浦谷間の集会のクリスマスである。礼拝後、食事をいただき、その後祝いの集いを開くのであるが、その時に披露しようと思っていた。ところが楽しい祝会なのでワインを飲んでしまい、どうもハーモニカを吹く状態では無くなってしまう。というより祝会で楽しく語らっているうちにハーモニカ披露を忘れてしまったのである。
ハーモニカは人様に聴いていただくものではなく、自分の楽しみで良いと思う。讃美歌集を開き、日本の童謡集を開き、曲を思い出しつつ吹くのであるが、結構楽しめるのである。そう言えば、少年院の篤志面接委員をしている頃、隣りの面接室でハーモニカを吹いていた。面接員が少年に聴かせてあげていたのであろう。少年の心が開けて、更生の道が導かれたのではないかと思ったのである。静かに、深く、心に響くハーモニカではないだろうか。