鈴木伸治の徒然記

永年の牧師、園長を隠退し、思い出と共に現況を綴ります

スペイン滞在記 <53>

 

スペイン滞在記(2011年4月4日〜5月18日) <53>
2011年5月12日「グエル公園
 


バルセロナに来たからには、グエル公園を見学することは皆さんからのお勧めであった。歩いて行かれないことも無いが、かなり高台にあり、上り坂を歩いていくのは大変である。このところ足の調子がよくないのでタクシーで行くことにした。羊子と一緒に生活しているRMさんが案内してくれるという。今日は暑い日なので、こちらに来てから買い求めたポロシャツを着ることにした。タクシーに乗っても6ユーロ位の距離である。720円だから日本と変わらないが、こちらのタクシー代は安い。
 さて、グエル公園に着く。RMさんが、ここは一番物騒なところだから、充分注意するように言われる。常々泥棒やスリに気をつけるよう言われているが、とにかく人の多いところは一番狙われやすいのである。まして日本人は格好の獲物とか。暢気であり、用心しないからである。公園の門に立っただけでも、人の多さに驚く。いたるところに観光客が居る。


入口からの光景



回廊。石造りの散歩道


それだけにこの公園は有名な公園なのである。企業家グエルはバルセロナの北部、この丘陵地ペラダの丘に、20ヘクタールの土地を確保する。ここは海抜240〜270mで、地中海に向けてなだらかな傾斜になっている。バルセロナ市街を一望できるし、地中海までの眺望がある。ここにグエルは庭園都市を造るためガウディに依頼したのである。この土地を60区画に仕切り、別荘風の高級住宅を建てる予定であった。しかし、20世紀初頭に世界を巻き込んだ不況と第一次世界大戦前の緊迫した世相が絡んで分譲住宅を購入する希望者が現れない。売れたのは3区画であり、計画は中止になる。その後、グエルが死亡したことで、遺族がバルセロナ市に売却したのである。計画と同時に、ガウディは庭園都市造りを進める。計画は中止になったとしても、今では毎日多くの人々が見学に来ている。セラミックを施したトカゲ(ドラゴン)、蛇行するセラミックのベンチ、石柱の回廊、何もかもが目を見張るものばかりである。セラミックは陶芸屋さんが捨てたものをもらってきて施してあると言うことである。世界遺産にもなっている。
 


広場に続く階段にある個性的な噴水



トカゲと称しているがドラゴンである


本来、しみじみと見て回るところであるが、人の多さにゆっくり鑑賞する気持ちが薄らぐ。それに大道芸人がいたり、あちらこちらで流しの音楽家が歌ったりしており、また露天商もいる。この公園の美観を損なうのではないかと思う。バルセロナ政府は公園の維持費のために、いずれは有料にするということである。そうすれば変な輩は入ることが出来なくなるであろう。1時間もいないと思われるほどで出て来てしまった。出口にお土産屋さんがあり、いくつか買い求めて、門の辺りで話し込んでいると、「日本人ですか」と言いつつ、一人の婦人が尋ねた。聞けばツアーからはぐれてしまい、どうして良いか分からないと言うのである。この公園内にツアーの皆さんはいると思うが、自分だけになってしまったと言う。バスはどこでしょうか、とも言っている。ツアーの名称やガイドの電話番号が記されたものがあるはずと言ったが、なにやら分からない印刷物を出していた。電話してあげるつもりでいたのである。結局、この入り口の門にいれば、必ずツアーの皆さんが来るはずであることを勧める。そのようにします、と言いつつ不安顔を示していた。その頃、ガイドさんが大慌てで探していたことであろう。ガイドさんの責任になるのだから。いや、必ずツアーの皆さんと合流すると思う。ガイドさんが探しに来るか、その門にいれば一行が出てくるのであるから。その婦人の不安顔を見ながら、私も聖地旅行をした折、迷子になってしまったことが思い出される。聖マリア教会を見学中、いつの間にかツアーの一行がいなくなってしまった。もうバスに行ってしまったと思い、バスの方角を目指したが分からない。これ以上彷徨っていると、元の聖マリア教会にも戻れなくなると思い、とにかくもどったのである。教会の前でツアーの一行が私の姿を認めて、大きな声で私の名を呼んでいる。安堵の思いがこみ上げてきたのである。言葉が通じない外国で迷子になることは、大変な事である。
 夕食を食べながら、あの婦人はツアーと合流し、安堵の胸をなでおろしていることであろうと語り合ったのであった。グエル公園見学も忘れられない思い出になるであろう。