バルセロナ滞在記「聖誕の門を仰ぎ見つつ」＜１７＞

バルセロナ滞在記（2014年10月21日〜）＜１７＞
2014年11月6日「お偉いさんの前で」

　同じ11月6日の日付で、今回は三回目の記録である。朝に街中を歩き、日中はガウディのやりかけた作業を見学し、帰宅して午後3時30分頃に昼食をとる。その後、少し休んでから犬の散歩を行い、午後7時頃になってアカデミアに出かける。アカデミアとは羊子がバルセロナに渡り、アリシア・デ・ラローチャ先生のもとで研鑽を積んだマーシャル音楽院のことである。そのアカデミアがアリシア・デ・ラローチャ召天五周年コンサートを開くことになったのである。その皮切りが羊子であるが、本日のリサイタルの後は12月、2015年2月、3月、4月、5月、6月、7月に開催することになっている。いずれもアリシア・デ・ラローチャ先生の薫陶を受けた皆さんたちである。
　5年前の2009年9月25日に羊子は海老名文化会館でピアノリサイタルを開催していた。アリシア・デ・ラローチャ先生はそのときに亡くなったのであるが、羊子はリサイタルを終えてからその知らせを受けたのである。もしリサイタルの前に知ったら、頭が真っ白になって演奏ができなかったであろうと述懐している。ラローチャ先生の薫陶を受けなければ今の羊子の存在はないのである。それほど熱心に教えられ、羊子もしがみつく思いで励んだのであった。どこに行っても羊子の演奏が喜ばれ、称賛されているのである。これは事実であり、親のよく目で記しているのではない。
　さてアカデミアにおける羊子のリサイタルは午後8時から始まった。アカデミア主催のアリシア・デ・ラローチャ先生を記念するコンサートなので、来られる人は一流の音楽家であり、教え、指導する人たちが多い。100人は来場されていたようだ。いわゆるお偉いさんたちの前で演奏する羊子も、この日は随分と緊張して臨んだという。重い曲ばかりであった。Albeniz、Granados、Mompou、Montsalvatge、Falla等、スペインが誇る音楽家の演奏である。それらの演奏の前に、羊子は自分の作曲の「Esperanza」を演奏する。演奏が終わり、拍手が鳴りやまないので、アンコールとして、やはり羊子が作曲した「源平桃」を演奏して終えたのであった。お偉いさんたちも羊子の演奏を喜び、称賛してくれたようである。皆さんは帰りがけに羊子とお話しをするので、長く順番を待っているのであった。また音楽評論家も来ており、さっそくその出来栄えを称賛したコメントを発表している。
　すべての皆さんが帰り、我々もアカデミアを出たのは午後10時前であった。このリサイタルにはホアキンさんも来てくださった。羊子夫妻と親しくしていただいている方である。84歳になっている。羊子たちの結婚式には4人の証人が結婚証明書にサインしたが、その一人がホアキンさんである。皆さんはマルケス（伯爵）と呼んでいる。それだけの風格があるからだろう。今回のリサイタルでも、最初に「ブラボー」と叫んだのはマルケスさんであった。そのマルケスさんが来てくださったので、一緒に食事をすることにする。どこの店にするか思案したが、結局10月26日の日曜日にもマルケスさんと食事をした日本料理店「UKAI」で食事をすることにしたのである。その時は帰国前の星子も一緒であった。マルケスさんは星子がすっかり気にいって、腕を組んで歩いていた。「UKAI」にしたのは、マルケスさんの家に近いからである。食事後もまた送らなくても良いことになるからである。
　26日のブログにも記しているが、日本料理店であるので、日本の代表的な食べ物がある。お刺身、お寿司、てんぷら、巻物等である。今回もてんぷら、お刺身、枝豆、巻物寿司等をいただく。日本的なものであれば「すき焼き」などがあっても良いと思う。しかし、日本料理といっても経営者は中国人なのである。ところで日本料理店に着いた頃は午後10時になるところだった。あちらこちらでなり物がしている。それは鍋ややかんを叩いているのである。六階建てのマンションのそれぞれの部屋のベランダでカンカン、コトコト、キンキンと叩いている。どこのマンションでも鳴らしているので街中の騒音になっている。これは11月9日に投票を行うアピールであると言う。カタルーニャ州がスペインから独立するための投票を11月9日に行うことになっていた。しかし、この独立のための投票は延期されたのである。それに対して投票を行うための投票が11月9日に行われることが計画されているのである。それまで夜10時になると一斉に鍋を叩くのである。その鍋の音に対して、バタンバタンと言う音もする。これは独立投票反対の人たちが、鍋の音に対抗して出している音なのである。この日は木曜日である。金曜日、土曜日も、この騒音ごっこが続くのである。